大糸タイムス 山麓人紀行

平成22年11月21日発行の大糸タイムス 連載「山ろく人紀行」に「囲炉裏端のもてなし」と題
して我家が掲載されました。大糸タイムスの記者が3日間通って書いて下さったものです。



時間が止まったかのような懐かしい風情が漂う。白馬村東山山ろくに位置する内山地区で、か
やぶき屋根と囲炉裏のある宿「民宿マル七」をかたくなに守り続ける伊藤馨さん。宿泊者ニー
ズが多様化する現代においても、開業から半世紀、自身の畑で採れた野菜を中心とした素朴
な郷土料理を振る舞い、囲炉裏の火で暖を提供するなど、日本の伝統文化を重んじたスタイ
ルをつらぬく。宿泊者と囲炉裏を囲んで談笑する姿に「人とのつながり」を第一とした、白馬らし
いもてなしの形があった。

―民宿開業のきっかけ、思い出は。

昭和38年の7月に民宿を開業し、ことしで48年を迎える。私が村議会議員時代だった当時の
村長に「学生村民宿の草分けを」と求められたのを機に、大正9年建築の自宅を改造して都市
部の学生を対象とした民宿をはじめた。ときには地震で都市の大学に出向き誘客活動に汗し
た時期もあった。村内には一夏だけで学生数千人が訪れたこともあったが、他施設での冷房
設備充実などにより、大学生の合宿は数年で無くなった。スキー観光地としての発展により、
民宿利用は冬が主体となっていった。

―観光低迷をどのようにとらえていますか。

私の民宿も最盛期だった昭和50年代から比べると利用者は10分の1ほどになったのでは。
900軒ほどあった村内宿泊施設も600ほどに減ったと聞く。時代の変化とともに、白馬におい
ても、日本の伝統文化が損なわれていった。そこに大きな要因があるのでは。白馬という名前
だけでお客さんが来ていた時代は終わり、宿としての中身、すなわち「売り」がなければ生き残
れなくなってきている。マル七では、宿泊客が夜通し囲炉裏を囲んで酒をくみ交わす姿を目に
する事もある。かやぶきと囲炉裏が無くなったら来ないという常連さんもいる。いつまでも守っ
ていかねば。

―民宿の醍醐味(だいごみ)は。

かつて当宿を訪れた学生が定年を迎え40年ぶりに再度足を運んでくれることもあるんです。
親戚付き合いをさせてもらっている常連さんも多くいる。お客さんと接し、文通を楽しむことは私
にとって人生無情の幸福であり、生きがい。この家があり、体の続く限り民宿を続けていこうと
思う。テレビや雑誌で取り上げられるたび、問い合わせは来ますが、老夫婦2人で営んでいる
事もあり、一見(いちげん)さまは断っているんですよ。食べる事が出来る程度のお金があれば
よいですしね。

時代は移り変わっても、変わらないという事も大事だと感じる。近代化の波に流される事なく、
日本の伝統文化を大切に、地域に根付いた豊かな暮らしに再度着目する必要があるように感
じる。観光の衰退で厳しい状況にあると思うが、気取る事なく、白馬に昔からある、人とのつな
がりを重視したもてなしを提供していきたいものです。 

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