昭和60年9月25日発行 山と渓谷"ウッディライフ16"P54

 「マル七」の屋号で知られるここ白馬の伊藤家は、代々"七右衛門"の名を世襲してきた由緒
ある家柄。現在の当主である八代目七右衛門こと伊藤馨さんは大正15年生まれだが、この家
屋そのものは大正9年に新築されたものである。
 1階が約80坪、2階が約56坪。とにかく堂々たる造りである。昭和38年、民宿を始めるの
をきっかけに一部増改築したとはいえ、そのほとんどが当時のまま。むしろ年を重ねる事によ
って、木造建築ならではの重厚さがかもしだされている。しかもこの材木、すべて伊藤家の持
ち山から調達されたものだというから驚きだ。
 磨き込まれた木肌の感触のなつかしさ、囲炉裏を囲んで憩う茶の間の団らんの温かさ、一度
「マル七」を訪れた人たちはきまって二度三度と再訪するというのも、なるほどとうなずける。馨
さんをはじめとする伊藤家の皆さんの、文字通り家族的なもてなしも数々のエピソードを生み
出してきたようだ。
 「民宿を始めて23年。私どもに来泊したお客さんは8000人は下らないと思います。夜中に
騒いだりしていると、飛び起きていって怒鳴りつけたり(笑)、いろいろなことがありました。でも、
その怒鳴りつけられた人がまた翌年も来てくださるんですよね。」と馨さん。
 信州の豊かな自然と心安まる日本家屋のぬくもり、それに親身な接待となればもういうことな
し。「マル七」のファンはますます増えそうだ。


狭い都会のマンション暮らしから見たら、うらや
ましい限りののびやかな空間。すすで真っ黒に
なった梁が年代を感じさせる。囲炉裏の火の暖
かさも、また格別だ。


2階の廊下。窓ガラスは大正9年のまま。ゆが
んだガラスから見る外の景色が、情緒をかもし
だしている。

今年もまたおなじみの顔が揃った。後列右端
が伊藤馨さん、ふたりおいて息子さん、その
前がお母さん。


こんな立派なふすまのある部屋で寝起きする
なんて、ちょっとした大名気分。当時は珍しい
吊り天井の座敷もある。


2階の長いつらら。毎日落とさないと重くなっ
て茅を引き抜いてしまう。前日に落としても翌
日にはご覧のとおりまた大きくなっている。


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