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かやぶき民宿は「ふるさと」へのタイムトンネルです
「うちは囲炉裏を焚いてるから、足の裏が真っ黒になりますよ。それに、昼間は畑に出るから あまり世話できないかもしれません。そんな宿ですけど、いいかねえ?」 民宿に泊まりたい旨を伝えると、そういう答えが返ってきた。宿を切り盛りするのは、ご主人 夫妻のふたりだけ。農業をやりつつ、昭和38年から民宿をはじめたそうだ。 むしろ、ほったらかしにされたほうが、ふるさとに帰った感じがするだろう。なんなら畑仕事も 手伝おう。そんな気持ちで長野県白馬村の民宿「マル七」へ向った。 白馬村の中心から南東の山へ少し入ると、内山という小さな集落に行きつく。かやぶき屋根 がふたつ見えるが、ひときわ大きなかやぶき民家が、民宿「マル七」だった。 「マル七」は1714年に3軒裏手の本家から分家した。現当主、伊藤 馨(かおる)さん(78歳) は、8代目にあたる。現在の家屋は、大正9年(1919)に改築したものだ。 家に入ると土間の北側に約1m四方の囲炉裏がある。囲炉裏を日常的に使っているのは、 白馬村でも1件だけだという。囲炉裏の縁には電話機が置いてあった。ミスマッチな光景だが、 この囲炉裏は、いまだ生活の主役なのである。 「どうだい?家の中は古くて汚いし、ここは白馬で最低の宿といわれてるだ。」と、伊藤さんは 笑う。 たしかに囲炉裏の煙は目にしみる。服も煙くさくなる。足の裏も黒くなった。しかし、いったん 囲炉裏のまわりに座れば、離れられなくなるから不思議だ。伊藤さんが昔話を始めると、その おもしろさにますます離れられない。 大正9年の改築の時、祖父が囲炉裏の自在鉤(じざいかぎ)を松本で買ってきた事。25銭の ものか、35銭のものか迷ったあげく、安い方にしたこと(今も使っている)。戦争から帰ってきた とき、囲炉裏の火を見て、涙が出るほどうれしかったこと。それが今でも囲炉裏を燃やし続けて いる理由だということ。こんな話を聞いていると、民宿というより、自分のおじいちゃんちに泊ま っているという感じがした。 翌朝、奥さんは僕らが起きる前に、畑から野菜を採ってきていた。その採れたてのキュウリと ナスは「これが本当にキュウリとナス?」というほど美味しかった。 ![]()
薪(まき)は、持ち山から切り出して、2年くらい小屋で乾燥させておく。灰は肥料や山菜のあくと
り、雪の上のすべりどめに使う。 ![]()
@鉄瓶(てつびん)の口は北へ向けるなよ〜
農家では北を忌む習慣がある。北まくらと同じで、鉄瓶の口は北へ向けないようにしておく。 A春木は裏から話は元から 春の湿った木は、裏(細い方)からくべないと良く燃えない。話は元(最初)から聞かないとわか らない。 Bこの石は囲炉裏の神様だでね 囲炉裏の隅には、子供が落ちないように石の守り神が置いてある。また、囲炉裏の四隅はま たいではいけない。 Cキセルでたたいて削れただ 囲炉裏の縁は物を置くのに役立つ。ここは伊藤さんの祖母がいつもキセルを叩いていたので 削れている。
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