白馬山麓物語

平成14年度 愛知県新川町 撮影会参加作品
製作:土屋 珍男子
撮影:平成14年6月12日
後援:新川町文化協会
  
















 雄大な北アルプスの大自然にシックに溶け込んだこの集
落は、長野県白馬村内山地区。日本の原風景を醸し出す
ようなこの地区に、ひときわ目立つ一軒の茅葺きの民家が
あります。昭和50年台、「トタン屋根なら手入れが楽です
よ。」と、営業マンが家々をまわり、茅葺きの屋根は次第に
トタンに覆われていったと言います。そして今ではこの一軒
だけになりました。
 畑を前にして建つ母屋は大正9年築の2階建て。白馬村
ではただ一軒となった、正真正銘の茅葺きの民家です。主
人の8代目伊藤馨さんは、奥さんと二人で民宿を営みなが
ら、この家屋を守っているのです。茅葺きの2階建ては白
馬では珍しく、2階は養蚕に使われてきたそうです。建材は
すべて伊藤家の山林から調達したといいます。前座敷10
畳、奥座敷15畳と、ゆったりとした造りとなっています。ま
た、前座敷の押入れの襖絵は、大正9年に建て替える以
前から、伊藤家にあった襖という事で、江戸期のものと推
定されています。
 そして玄関奥にあるのは囲炉裏です。この囲炉裏端に腰
を落ち着けると、何とも言えない、落ち着いた気持ちになる
から不思議です。とろとろと薪の火が燃えて、ここが毎日の
生活に欠かせない場所で、私の育った岐阜の実家も囲炉
裏に火が燃えていました。ここは、一家団欒の場所であ
り、来客接待や、炊事、夜なべ仕事の場所であったりと、す
べて生活の中心がこの囲炉裏端だったのです。
 伊藤夫妻の話を聞いているうちに、私の子供の頃を思い
出していました。囲炉裏端での会話がはずんで、今夜もゆ
ったりと茅葺き屋根の夜は更けていきます。
 白馬山麓に、今日も目覚めの良いすばらしい朝が来まし
た。田植えが終ったこの時期、田んぼの水管理に主人が
出かけるのが一番の仕事だといいます。その頃台所では、
朝食の準備が始まり、伊藤家の一日が始まります。忘れ
かけていた田舎暮らしが体験できる格好のお宿が、ここに
はありました。
 それではここで、伊藤さんも推奨する白馬山麓のビュー
ティフルスポットをご案内しましょう。おおらかに流れる姫川
と吊橋、茅葺きの民家。その後ろに白馬連峰の山並み。こ
の山里の風景は言うまでも無く、まさに心のふるさとではな
いでしょうか。石垣を築いた棚田と伝統的な民家が残る青
鬼地区。こんのところが白馬山麓にはまだまだ残っていま
す。さわやかな風が吹き抜ける白馬山麓で、いつまでも心
に残るような、雄大な大自然の風景が、ごく当たり前のよう
に目前に展開しています。姫川源流、親海湿原では、水芭
蕉や杜若が咲き始めていました。
今度はロープウェイを乗り継いで、栂池高原へやってきま
した。標高1800mを超えるこの辺りでは、6月初旬という
のに、漸く芽吹きがはじまったばかりです。そんな遅い春を
迎えた白馬山麓 栂池高原です。雪の残る湿原に顔を出し
た、この芽はなんの芽でしょうか? 雪の消えた湿原の一
部に、咲き始めた水芭蕉の群生をみつけました。厳しい冬
の風雪を地中で耐え抜いて標高1860mのこの地に咲く
水芭蕉に、春の白馬山麓の幕開けを感じていました。
 茅葺き民家に別れの時が来ました。民宿発祥の地として
知られる白馬山麓の伊藤夫妻、いつまでもお元気で。





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